1.心房細動と問題点
● 心房細動とは?
心房細動(AF)は、心臓の上の部屋「心房」が不規則に震えるように動く不整脈の一種です。このため心臓全体のリズムが乱れ、効率的に血液を送り出せなくなります。
● 心房細動の問題点
- 血栓(血の塊)ができやすくなり、特に心房の中に溜まった血液が固まりやすい
- その血栓が脳の血管に詰まると脳梗塞(特に重症型)の原因になります
- 動悸、息切れ、だるさなどの症状や、心不全のリスクもあります
2.抗凝固療法の重要性について
● なぜ抗凝固療法が必要か?
心房細動によって血栓ができやすくなるため、それを防ぐ必要があります。抗凝固薬(血をサラサラにする薬)は、脳梗塞などの重篤な合併症を予防するための最も重要な治療です。
● 主な抗凝固薬の種類
- ワルファリン:定期的な採血(PT-INRの確認)と食事管理が必要。納豆は食べられない。
- DOAC:近年よく使われる、新しいタイプの抗凝固薬。定期的な採血は不要。
● 注意点
- 出血リスクとのバランスが大事(消化管出血や転倒時の頭蓋内出血など)
- 一度中断すると脳梗塞リスクが急激に上がるため、自己判断でやめないことが重要です
3.その他の血栓予防法
抗凝固薬の内服が難しい方や、より根本的な血栓予防を目指す方向けに、以下のような選択肢もあります。
● 左心耳閉鎖・切除術(抗凝固薬が使えない、または中止したい場合)
【左心耳とは?】心臓の左心房にあるポケット状の構造で、心房細動では血栓の90%以上がこの左心耳に形成されるといわれています。
【目的】この左心耳を閉鎖・切除することで、心房細動に伴う血栓形成のリスクを減らす治療です。
● 3-1. 内科的左心耳閉鎖術(Watchmanなど)
● 方法
カテーテルを用いて足の付け根から心臓にアプローチし、左心耳の開口部に専用の閉鎖デバイスを留置して、血流の流入を防ぎます。
● 主な適応
- 出血のリスクが高く、抗凝固薬の継続が難しい患者
- 脳梗塞リスクが高いが、抗凝固療法が禁忌または希望しないケース
- 透析患者
- 抗凝固薬を内服しているにも関わらず、脳梗塞を起こした患者
● 特徴
- 低侵襲(開胸なし)
- 一度の手技で長期的な血栓リスクを軽減
- 留置後しばらく抗血小板薬が必要な場合あり
経皮的左心耳閉鎖術
● 3-2. 外科的左心耳切除・縫縮
● 方法
心臓手術(たとえば弁置換術など)と同時に、左心耳を切除または縫い縮める方法です。また、胸腔鏡を用いて、短時間の小手術で左心耳を切除する方法(ウルフ・オオツカ法など)があります。
● 特徴
- 他の開心術と同時に行われることが多い
- 根治的に左心耳の血栓形成を防ぐ
- 再発のリスクが少ない
- 内科的治療と比較し、早期に完全の抗血栓剤を中止できる可能性が高い
● 適応例
- 弁膜症などで心臓手術を予定している心房細動患者
- 早期に抗血栓剤を終了する必要がある患者
- 内科的治療デバイスが適合しない場合
4. アブレーション治療とは?
● アブレーションとは?
心房細動の原因となる異常な電気信号を出す場所(主に肺静脈の周囲)を、カテーテルを使って隔離し、信号を遮断する治療です。
● 手術の流れ(簡略)
- 鼠径部(足の付け根)、首の静脈からカテーテルを挿入
- 高周波(RF)または冷凍(クライオ)、パルスフィールドで隔離
- 麻酔で寝ている状態で、数時間で終了し、通常は数泊で退院
● メリット
- より高い心房細動の抑制効果(特に発作性心房細動で効果大)
- 薬に頼らない生活が可能になることもある
● デメリット・リスク
- 心タンポナーデ、血栓、肺静脈狭窄などの合併症の可能性
- 再発することもあり(追加アブレーションが必要な場合も)
5. パルスフィールドアブレーションとは?
● 新しいアブレーション技術
パルスフィールドアブレーション(PFA)は、電気パルス(高電圧の短い電気)を用いて心筋の細胞膜に穴を開け、細胞死を誘導する方法です。
● 特徴とメリット
- 周囲の組織(食道、神経、血管など)を傷つけにくい
- 焼灼や冷却が不要 → 短時間で正確な治療が可能
- 合併症リスクが低く、安全性が高いとされている
- 近年、日本でも保険適用され始め、期待が高まっている最新治療
パルスフィールドアブレーション
6. 止血デバイスについて
●止血デバイスの概要
心房細動のアブレーションや左心耳閉鎖術では、足の付け根(大腿静脈)などからカテーテルを挿入します。
手技後にはその穿刺部位からの確実で安全な止血が求められます。
● 止血方法の種類
- 手で圧迫(マニュアルコンプレッション)
- 止血用バンド(デバイスなし)
- 専用の止血デバイス(縫合 or コラーゲンなど)
● 治療の実際(心房細動アブレーション後など)
- 多くの施設では長時間圧迫を避け、早期離床・早期退院を実現するために止血デバイスが導入されています。
- 高齢者の合併症リスク軽減にも有用です。
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